日本と世界の経済がかかえる難問を解決する道
新聞記事やテレビ報道で、日本経済の将来を嘆く大悲観論が氾濫している。書店でも、「日本はもうダメだ」「このまま沈没してしまう」という悲観一色の雑誌や本が売れているようだ。悲観論を語らなければ、新聞は部数が伸びず、テレビは視聴率が上がらず、本も売れない。そんな固定観念に、メディア関係者は縛られているらしい。
しかし、マスメディアが煽る悲観論に、騙されてはならない。
私は、世を覆う日本経済の先行き悲観論の〝根拠〟なるものを、もっとも信頼するエコノミストの二人、榊原英資さんと竹中平蔵さんに、徹底的に問うことにした。
現在の日本には、さまざまな問題が山積している。デフレは20年も続いている。少子高齢化や人口減少という構造的な問題も、膨大な財政赤字や深刻な円高も、いまに始まったことではない。2011年の3・11以降の原発問題、東日本大震災からの復興の遅れ。さらに、2012年夏にエスカレートした中国との尖閣諸島問題、韓国との竹島問題。これらを一向に解決できない政治の不在、官僚制度の疲弊……。
枚挙のいとまがないが、実は、これらの問題にはすべて根拠がある。そして、困難な状況を突破する解決策も必ず見つかるはずだ。
鼎談では、榊原さんと竹中さんに日本がかかえるあらゆる問題をぶつけた。私は、悲観論者たちの代表を演じて二人に容赦なく斬り込み、なんとか彼らの主張を粉砕しようと試みた。二人は、私がしつこく問う悲観論にうろたえも躊躇もせず、はぐらかしもせずに、真正面から自信に満ちた答え方をした。なにより感心したのは、学者や評論家にありがちな小難しい理屈が一切なく、難しい問題を実にわかりやすく話してくれたことだ。
いうまでもなく世間は、榊原さんと竹中さんを犬猿の仲と見なしている。しかし、問題意識や事実認識については、多くの点で二人の意見は一致した。その先、どんな対応策が必要かについては、二人の意見はしばしば鋭く対立した。この議論はスリルに満ち、読み応えあるものになった。読者には、両者の一致点と対立点に注意して読み進め、自分はどちらの意見に賛同するか、立ち止まって考えてほしい。
本書を読んでいただければ、いま日本や世界がかかえている経済問題が、はっきり浮き彫りになるはずだ。そして、日本の展望が鮮やかに開け、日本人の誰もが強く生きる力を実感できるだろう。
実は、榊原さんと竹中さんとは2年前にも鼎談したことがある。『絶対こうなる! 日本経済』という本がそれで、広く読まれた。このとき二人が指摘した円高をはじめとする経済情勢は、日本の現状を見事に言い当てている。同じようにこの本も、日本経済の今後を見通すうえで欠かせないものとなるはずだ、と私は確信している。
本書をまとめるにあたっては、アスコムの高橋克佳、小林英史、そしてジャーナリスト坂本衛の諸氏の同志的な協力を得た。感謝して筆をおきたい。
2012年10月 田原総一朗
はじめに
第1章
それで、どうする!
日本経済、これが問題だ!
・「成長」から「成熟」へ。高成長はもうムリなのだ
・一億総中流の「消えた中流」は二度と復活しない
・なぜ日本発のアップル、グーグルが生まれないのか?
・トヨタがシャープやソニーになる恐れも……
・少子化で、移民、未婚の母を認めるのか?
・政府はなぜ「やってはいけないこと」ばかりやるのか?
・円高なのに、なぜ日本は株安なのか?
・日銀はもっと円を刷るべきなのか?
・企業がカネを借りないのは「規制」があるからだ!
・官僚が衰えて「抵抗勢力」になった?
・政治主導は、自分でハンドルを握ることではない
・「脱官僚」から「官僚丸投げ」へ大転換してしまった民主党
・今、必要なのは「増税」ではなく「減税」だ
・日本国債は少なくとも5年は暴落しない!
・「消費税増税でも効果なし」とマーケットにバレたときが一番危ない
・民主党はムダを削るどころか、自民党以上のバラマキ政治だった
・民主党は「予算の中身」がわかっていない
・年金未納問題は税金で取れば解決する
第2章
それで、どうする!
中国経済、これが答えだ!
・尖閣国有化は一大失政、問題解決には時間がかかる?
・いよいよ中国のバブル経済がはじける恐れが強まってきた
・中国共産党は、うまくバブルを押さえ込んできたが……
・「中進国の罠」を乗り切れるかどうか?
・中国的なステート・キャピタリズムは意外に強い!?
・もはや「独裁国家」ではなく「官僚国家」である
・20年後、中国のトップはアメリカ留学組ばかりになる、ということは……
・中国の野望は、「米国と太平洋を二分すること」である
・米国の対中戦略=TPPに、日本はこう対応せよ
・「スマートパワー」を持ったとき、中国は本当に強くなる
・サラリーマン挑戦物語『プロジェクトX』が中国ではまったくウケないワケ
・一党支配だが、激烈な競争社会でもある
・ハーバード大の留学生、中国人が激増し、日本人が皆無になった理由
第3章
それで、どうする!
アメリカ経済、これが答えだ!
・保守かリベラルか、米国民の価値観はこの10年変わっていない
・リーマン・ショックは「市場原理主義」とは何の関係もない
・「強いドル」政策が世界中のカネをアメリカに呼び込んだが……
・米国が「失われた10年」を脱するにはまだ数年かかる
・サマーズ米財務長官は「ダメな銀行はさっさと潰せ」と言ってきた
・もはや「ハイテクの時代」から「ハイタッチの時代」へ
・「アメリカン・ドリーム」は崩壊したのか?
・「アメリカの時代は終わった」という主張は、言い古された〝物語〞でしかない
・米国が直面している「二つの危機」とは?
・「市場原理主義者」に会ったことがある人は本当にいるのか?
・「市場」か「政府」か、二つに一つではなくバランスの問題なのだ
・「ケインズかハイエクか論争」は問題設定自体が間違っている
・円高ドル安はさらに進み、1ドル60円台になる!
・一転、円安になる「二つのシナリオ」とは?
第4章
それで、どうする!
ヨーロッパ経済、これが答えだ!
・そもそも「ユーロ」を作ったことが失敗だった?
・なぜイギリスは、ユーロを導入しなかったのか?
・ドイツもギリシャもEUを出られない
・「ユーロ大混乱はドイツの陰謀」説のウソ
・榊原の主張「日本はフランス型の福祉社会」を目指せ
・竹中の主張「日本は王室があるイギリス型社会」を目指せ
第5章
それで、どうする!
原発、これが答えだ!
・安全神話の崩壊で、日本の価値が根底から問われている
・「20年で原発ゼロ」を目指せ!
・日本人の大半が「原発は危ない、将来はゼロにしよう」と思っている
・報告書には、一番肝心な「原発継続か廃絶か」の結論がない
・原発を推進したい官僚が、報告書に小細工をしている
・政府が機能していないから、官僚はやりたい放題になっている
・国の将来を左右する決断まで官僚に丸投げするな!
・「原発ゼロだと電力不足」は東電とエネ庁の作為的データである
・原発ゼロの実現には、「電力自由化」が最重要課題だ!
・原発から代替エネルギーへ「膨大な予算のつけ替え」をせよ!
第6章
それで、どうする!
日本経済、これが答えだ!
・民主党「日本再生戦略」は机上の空論! 戦略の名に値しない!!
・省庁の寄せ集め案をパチンと綴じただけの「ホッチキス」プランだ
・竹中の主張「名目成長率3%の普通の国」か榊原の主張「1%の成熟国家」どちらを選ぶ?
・20年間ずっと脱却できないデフレの原因はこれだ!
・デフレは、貨幣だけの現象ではなくなってきた?
・榊原「デフレ脱却しなくていい」vs.竹中「デフレ脱却はしないといけない」
・「デフレ克服」なら、やらなければならないことは二つある
・「圧倒的技術」がなくてもグローバル化で勝つ方法はある
・インテルやボーイングの下請けのようになってしまった理由はこれだ!
・これからの世界は「イノベーション」の競争になる
・サーブを見限ったスウェーデン、JALを救った日本、何が違うのか?
・仁川のようなハブ空港を作れ!
・一人あたりの「包括的な富」は、今でも日本が世界でナンバー1である
・日本ほど自然、安全、環境がよい国はないのだ
・環境、安全、健康で「世界一の成熟国家」として維持していけばいい
・日本のポテンシャルを生かす「自由」がない!
・日本でベンチャーが育たないのは「複合的自由」がないからだ
・「お受験」が、子どもたちの創造力を削いでしまっている
・いじめはなくならないから、そんな学校なんか行かなくていい!
・「学校に行かない自由」を前提にした、教育の大改革が必要である
・小沢一郎がツイッターをやったら大きな求心力が生まれるだろう
・傑出した政治家・小沢一郎の二つの大き、欠点
・総理になれるはずがなかった小泉と野田の大きな違いとは?
・「異端としての強さ」を持つ人が、強いリーダーになるべきだ
・橋下徹は次世代のリーダーとして期待していいのか?